『暗殺の森』に迷い込む

大団円の急襲(吸収)

ベルナルド•ベルトリッチ『暗殺の森』(原題は”Il comformista”で「順応者」という意味)を観た。


もうご飯3日間食べなくてもよい。
今なら映画と心中できる。

と思えるほど興奮の境地に立たされる映画だった。


ストーリーを簡単に説明すると、幼い時に男色と殺人のトラウマをもつ主人公、マルチェロが、”正常な人”になるためにファシズムの政治組織で秘密警察活動をする話。もっと圧縮するならば狂気と正気の二項対立。


しかし一体誰なんだ、この映像を設計したのは?
監督のベルトリッチか、あるいは撮影監督のビットリオ・ストラーロか。
まさにどの画面も”設計”か、あるいは”デザイン”と呼ぶにふさわしい構成であり、そこには手放しの映像などないに近い完璧さ(あざとさ)だ。
ここにその例をいくつかあげる。


•ブラインドの光が差し込み、部屋中縞模様の影で覆い尽くされる中(ちょうどマン•レイの写真のよう)、モノトーンの横縞のワンピースを着たジュリアがマルチェロの前で、音楽にあわせて招き猫のようなダンスをするシーン。


•アプラリ(”木”という意味)という母の愛人を消し(おそらく殺し)、枯葉を巻き上げ車に乗るマルチェロと母のローポジションのシーン。


•色とりどりの丸い照明がぶら下がる盲人達のパーティ会場。


マルチェロと教授がプラトンの”洞窟の比喩”を語り合う部屋にて。左半分の窓が閉められ、マルチェロに対する教授の顔が逆行で一向に真っ黒。見えない。声だけ響く教授。


•教授夫婦とマルチェロ夫婦の夕食会の図。大団円のダンス。(踊る人々が次々と手をつなぎ、大蛇のようなうねりをなしながら店の外にで、店の周縁を巡っている間、マルチェロ空っぽになったダンスフロアを横切り、見張りの政治組織の仲間の席へ、教授殺人の決行を知らせに行く。その後、店内に戻って来た大団円のうねりの中心に巻き込まれるマルチェロ。)


•上記の舞台となる中華レストランにて、マルチェロとその見張りが顔を寄り詰め、言い合うシーン。(壁に身を潜める二人の左半分の手前側には、吊り下がる照明がぶらぶら揺れ動き、その奥には厨房のコック達が立ち回る音や姿がある。)


暗殺の森のシーン。



まだまだあるがきりがないのでこの位で。とにかく、ざっとあげただけでも記号的、設計的なシーンがこれほどある。


さて、もっと印象的な話をするとドミニック・サンダをあげなければならない。強烈だ。冷めてはいるが凄みのある演技ができる女優で、男性役でジュリアとダンスをする彼女の妖艶な容姿に猛烈に魅了される。最後の暗殺されゆく森で、マルチェロの乗る車の窓にへばりつき、絶叫する彼女にも激しく動揺。



観賞後、放電後の痴呆と化し、とにかく何も手につかない。
このままでは死ぬまでにこの映画をスクリーンで観なければ死にきれない。
何かそのような幸運な情報(ベルトリッチナイトなどの情報)を握った方がいらっしゃれば即刻ここに連絡していただきたい、という意向をここに表明しておく。