送信するONJO祭り

OUT TO LUNCH

先日大友良英率いるONJOの新作アルバムの発売記念ライブが渋谷で幕をあげた。
そのアルバムとはエリック・ドルフィーが64年に発表した作品『Out To Lunch』の全曲リメイク・アルバムである。


開場18:00。人との待ち合わせ17:00。17:15分に電話が鳴るがワタシいまだ家。
完全に間が抜けていたのだ。電話越しの人間は回線交換方式により、怒りの周波数をのせた交流信号を送っている。3回間違えればシステムアウトである。
その後私は走る走る。乗り換え時の電車のホーム上もダントツのトップで走る(ただし次の電車は6分待ちで、最後尾の人間とどうせ同じ電車。)週末の、新聞の字ほどに人口が密集した道玄坂をも体当たりまがいにぶっちぎって駆け上る(もしくは迫力で脅迫的に道を開くモーセ十戒)。勢いあまって曲がらなければならないお寿司屋も見逃しかつ通り越し走り続ける私を待ち人が呼び止めなければ道玄坂の山頂に届いていただろうか。


とりあえず走ることで抜けた分の間の埋め合わせに成功し、なんとか開場時間に到着。入場するとしょっぱなでワンドリンク制というルール説明を受ける。それに従いうっかり注文した高濃度アルコールは、走って乾いた喉を余計に発火させ、動悸を促進させるのだ。


あぁ、こうした瑣末な出来事をこの際全て忘却の竜宮城へ。
というのも右も左も分からない私の初大友良英ライブは感動的な展開だったからだ。
それまで私は大友良英、もしくはONJOに関しては、なんとなく人が聴いているのを盗み聴きし、ジャズだがなんだか知らんけど、そんなことを気にせず打ち明けるなら"Dream"と"ONJO"いうアルバムはなんとなく好きさ、ということでひっそり聴いていた。しかし、音楽全般コンプレックス、もしくは恐怖症なので(そして恐れあまって憧憬の念をいだきやすい)あまり積極的にその好意を拡張しなかった。
それなので今回ライブも半信半疑であったのだが、行って感動した。


とにかく始終大興奮だ。
おのおのの楽器が極度に張り詰めた時の多重音、大友さん、グーの手で空中を殴る殴る。あの溜めの極度の緊張と、破壊行為寸前の開放、その二つのドラッグ的な繰り返しに出会い、私もすっかり恍惚状態である。
大友さんの右手がグーパーする。大友さんの左手は眉間をたたいている。大友さんがパーを出せばお花がぽろりだ。こうして音が鳴るのを見ていると、あたかも大友さんの指揮が気の送信にも見えてくる。いけない徴候だろうか。
ただし、宙を殴りながら激しく指揮をする大友さんも、カヒミ・カリィには礼節な面持ちで手のひらをそっと差し出す。おかげでカヒミさんはささやくように歌うことができるのだ。


そんな怒涛なものと静謐なものが交互に広がる空間において、特にウッドベースとドラムにはらわたごと操作されているのかと思う程たくみに魅了された。
ステージのバックに映された今回のアルバムのジャケット(森山大道の写真)に映る歯の抜けたおじさんはウッドベースの水谷さんはないですからね!と大友さんに注意の対象にされた水谷さんであるが、演奏しているときはもちろん輝かしいのだ。


自宅に帰って本日がらみのCDを眺める。
ジャケットのバックの"TEXTILE"という言葉に惹かれライブ会場で購入した"HIGH TONES FOR THE WINTER FASION"をわくわくしながら開封
しかしながら入ってない、CD。
TEXTILE → フィンランドは寒いから着込みすぎて中身のことをすっかり忘れてしまったのかな。という好意的な解釈をするほど私は人がよくない。ので、好意の補数をとって1から始まるセグメントを送る送信先と送信方法をこれから検討せねばなるまい。

それではこれから昼食にでかけることにする。