嬉々麒麟

nekowani2005-03-30

本日、山中貞雄『百万両の壺 丹下左膳』を観に母校の図書館へ向かう。さて、入館するとどうも見覚えのある方が司書から預かる資料を片手に嬉々とした様子でソファーでゴソゴソしている。彼は私が大学1年の時受けたフロイトの授業の文壇に立っていた、小此木啓吾の弟子で精神科の医師であるA先生である。文学好きなA先生は、かつてある文芸誌に寄稿した三島由紀夫の記事を郵送してくださったり、何度かケーキを奢ってくださるなど、nekowaniにとって非常に恩を感じるところの多い方で、しかしながら声をかけるかかけまいか、なんせもう何年も会っていないし、様子も大分変わっているようで本人定かでないし、なにせ自分のことを覚えているわけはないと躊躇する。だが、遠くから凝視してしまったせいか何度も目が合うし思い切って声をかけてみたところ、やはりA先生であることが判明し、大喜び、心の中では得意の踊念仏が繰り広げられる。その後、図書館で閉館まじかまで話しこむ。結局、山中貞雄はお預けになったが、大学の図書館は近所でもあることだし機会は存分にあり、それよりもA先生に会えた事の方が事が大きく、至福の時を過ごせた。

とにかくnekowaniはA先生が当時から大好きなのである。卒論の題材となった大江健三郎との出会いもA先生との散歩が機縁になったほど、彼のその後のnekowaniにおよぼした影響力は大きく、奇妙に惹かれる人なのだ。斎藤環ヘンリー・ダーガー、カメラや文学など、共有する話題が多いのでやや興奮ぎみになり、静まりきった春休みの図書館カウンター前のソファーは、我々の声が鳴り響く。目を開けてるのが疲れるからといって目をつぶって外を歩き電柱にぶつかり額に血を流す先生の日常に不安を覚えながらも、そんな先生の奇行振りを影で面白がり、尚更愛情の太鼓を打ち鳴らすnekowani。卒論を読んでくださるとのことなのでこれからちょっとした校正をせねばならぬことも大いなる楽しみになるほど、今日の偶然の出会いは嬉しいものであった。