映画猟人日記

nekowani2005-03-12

  • とにかく映画を観に行きたい。何かを観たいというより、映画を観に行く行為自体を楽しみたい、ということで渋谷イメージフォーラムへ。タイトルは『猟人日記』(http://www.elephant-picture.jp/ryojin-nikki/index.html)-である。これを選んだ理由はほとんどないに等しい(ネット上で確認した映画のイントロダクションの写真が西洋的低気圧の曇空で覆われていたこと、イメージフォーラムという建物自体がモダン、という理由のみで選んだ、極めて頭の悪い、時代遅れの近代人として、週末の渋谷に敢えて出向いてみたのだった)。
  • 渋谷に繰り出す「遅れてきた青年」のたどり着いた時代は、1940年末、なんとなく体が資本、のような肉体派の労働者が集まるイギリスが舞台。シミーズ一枚の女(キャッシー)の死体を水中から、続いて地上から俯瞰でみる。彼女はユアン・マクレガー扮するジョーと岸辺での性交後、「子供が出来たから結婚して」「やだ」という口論中、うっかり足を滑らせ海に落下、溺れ死ぬ。なんというか… 音楽とか映像とか過剰にシリアスな割には展開があまりに間抜けではないだろうか… 映画のチラシの写真も、岸壁の上にシミーズ死体に神妙な顔つきで手を置くユアン・マクレガー、どんより空、なびく風、第二次産業!みたいな重々しい図であるが、裏をめくれば中井美穂の「怖い、暗い、エロい、三拍子の映画です」を筆頭に「男の愚劣と謎を描いて実に優れた作品である」と町田康が本当にそう思っているのか知らないがコメントを載せていたりして「官能のロードショー」をもりたてているのもなんとなく失笑。
  • 「卵はない」と言われたのに、貨物船の主人の皿に黄身のかけらが残っていたのをジョーが発見し、横目でそれ凝視するシーンや、進む船の甲板を進行方向の逆に歩き続けるのを、カメラが俯瞰で画面の端に捉え続けられたジョーのシーンなどは、キチンと作りこんでいる感じがして好感がもてる。(好感がもてる、という感想が映画を語る中で許されるのだろうか。身分の問題が脳裏に浮上。)
  • 川の上を移動し続ける船が棲家であり、舞台装置そのものがすでにハプニング、生活まるごと出来事的で魅力的な設定だ、と思ったのだが、どうも単にジョーの人妻狩りに終始、不完全燃焼。の癖に音楽やら映像やらやたらシリアスに仕立てたがるので正直うんざり。
  • 結局、放蕩者ジョーは、キャッシーの死の濡れ衣を着せられた配管工をほったらかしにしたままキャッシーからもらった「あなたをみて、わたしを思い出して」といようなことが書かれた情念の手鏡を海に投げ捨て、どっかいって終わりだ。98分がこれほど長いとはめずらしい映画だ。
  • 映画なんてこんなものだ。むしろ今回は満足できる方だ、と思うしかない。それにしてもイメージフォーラムの画面はミニシアターとしては工夫されて観やすい(私の「観やすい」という基準は徹底して「前の人の頭が画面にかからないか」につきるだけだが)のでストレスなく観れたのでよかった。チケット買ったり他人と画面共有したり、たとえ音が割れようともお腹にひびく低音を感じたりでき、映画館はやっぱり楽しいな。