縮図縮図縮図…インコ道理教覚書

『縮図・インコ道理教』大西巨人/巨人館
を読んだ。ただで公開してるなんて大西さんは偉大だな、と感謝。
読了後、読書の杖として簡易なメモを残した。(志なかば、疲労のため不完全で終わるが)

一、遠景…天皇制について
二、中景…インコ道理京地下鉄毒ガス事件について
三、近景…天皇制とインコ道理教の近親憎悪について
四、現景…9・11、米によるイラク空爆、原爆以前と以後の『資本論』、憲法9条など現状について

・献題の要約
「宣誓布告」のある政治的殺人は「戦争」と呼び、「宣誓布告」がない政治的殺人は「人殺し(テロリズム)」と呼ぶことで、前者を是認、後者を否定するのでなく、どちらも「人殺し(テロリズム)」として否定するべき。

・前書きの要約
辞書の「援用」「引用」、オウム真理教の「借景」のことわり。

・「作者ないし語り手」による表題の注記の要約
『縮図・インコ道理教』の「縮図」は「インコ道理教という宗教団体の縮図」ではなく、「宗教団体インコ道理教は、『皇帝』日本の縮図」である。

「インコ道理教に対する国家権力の出方は「近親憎悪」である」という命題をめぐって
・Bの解釈とそれまでの経緯
①A→大圃への質問
天皇制三千年の長期存続はその卓越性・有意義性・有益性の証明ではないか?」

②大圃→Aへの回答
「世間のらい病問題にたいして無知であったのと同様、天皇制という問題にたいする底知れぬ無知の表れであり、卓越性・有意義性・有益性の証明にはならない。」

③Aと大圃の質疑応答を踏まえたB→大圃への確認
「(長期存続する天皇制に比して)新しい生起発現、例えば新興宗教(具体的にはインコ道理教)の低劣制・有害性の証明ではない。」→「<新しい>ことに対して<古い>ということ優位性はない」

④B→大圃
インコ道理教の地下鉄有毒ガス事件の状況についての考察。
1、法による判決<国家の見解>が出る以前でも言える意見…インコ道理教の地下鉄有毒ガス事件は「悪」(前提なしの判定)。
2、法による判決<国家の見解>が出る以前での躊躇…国家権力の出方への意見(前提が必要な判定)。(③を前提とするうえで)国家はインコ道理教に近親(国家によるの殺人<戦争>とインコ道理教の殺人<≒テロ>の近親関係)憎悪を抱いているのではないか。


⑤新憲法について
・外国からの押し付け憲法だという見方からくる排外民族主義がある。
・それに対し、真田宗索『新憲法は自前である』という意見もある。(明治十年代の自由民権運動にて作られた『五日市憲法』という私擬憲法草案が新憲法に似ているのを論拠)
・新憲法による天皇制が、一切の責任から解除された一存在、国民ではない奇怪な一存在である<象徴>天皇を生み出し、「法の下ではすべての国民が差別されない」と矛盾。

⑥文学について
・文学に対する伝統を前提とした芸術的良心と伝統を前提としない自己の芸術的良心に対する善/悪の意味付け。
・芸術的良心に従ってないとされる水上瀧太郎『世継』に対する「反動性」の指摘→再帰(選びなおし)的な在り方。
樋口一葉の「雅俗混淆」の文体への見直し

⑦原爆以後のマルクス資本論』の「暴力」の意味
・労働階級による武力革命の実行は、有産階級による原爆使用の公算になる。
・一方、労働階級の活動力が有産階級の原爆使用を抑制する力にもなる。


<私的感想>
天皇制の問題について、多様な切り口かつ繰り返されるメタファーによって丁寧に周辺を巡るもしくは往復するので、歴史的な知識などの有無を問わず(現に基礎体力の劣っているnekowaniにも)読書の戯れとして楽しめた。
・あらゆる箇所に三角形の図式が持ち出され、理解しやすい。
・「インコ道理教に対する国家権力の出方は「近親憎悪」である」という意はとても分かりやすいがなんとなく安易な気もする。宗教も国家もある信仰を共有する共同体であるという意味では同じだ、という考えは分かるが、やはり一括するには、(具体的な現象を問題にするほど)両者の距離は気になる。もちろん、その距離があるために「語り手ないし作者」はあらゆる迂回、引用、隠喩を用いるのだし、最後は「陥穽」といった言葉によって、不安や不定を表しかつ通行可能な出入り口を用意することで、再帰可能なシステムも準備しているのであるが。(とにかく懇切丁寧だ。)
・宗教と国家については日常においてもひっかかる部分が多いので、今後も考えていきたいテーマである。